子どもの間の「いじめ問題」を考える必要があり、改めてネットで「いじめ」状況を検索してみた。

 いじめ問題については、故森田洋司大阪市立大学教授と、おそらく日本でいちばん早く著されたであろう「いじめ~教室の病~」を共著で書いた者として関心を抱き続け、いじめ研究を積み重ねてきた。その研究結果をまとめたのが「いじめの深層を考える(ミネルブア書房。2013年)」であった。これをもって私の「いじめ学研究」は、体調を崩したこともあり、ある書店から追加の著作執筆を求められたが、一応の締めとした。ただこの本を著した後であったが、森田氏とわたくし清永の間で「いじめの定義」と「いじめ世界の広がりと深さ」そして「いじめ世界の今後」に関し、深夜に及ぶ長い話し合いがなされ(議論というよりも口論と言って良い。清永は既に体調を壊していた)、結果として金子書房から出されていた「いじめ~教室の病~」を絶版とするという清永の提案を森田氏は受け入れたことは事実である。

ここで先に述べたように「ある必要」があり、最近の「いじめ状況といじめ研究の現状(こうした専門的研究領域を「いじめ学」と呼ぼう)を調べることとなった。その作業で感じたことを書き留めておきたい。言葉少ないため間違ったことを書くかも知れないがお許し頂きたい。

<現在の問題状況>

令和4(2022)年10月に文部科学省(以下、文科省)が出した「いじめ状況」に関する「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査(以下、文科省問題行動調査」についてみると、2013年「いじめ防止対策推進法法律第七十一号)」が定められ、文部科学省を中核とした「いじめ解消努力」が精力的に進められ「いじめはなくなる」こととなりました(奇しくもわたくしのミネルブア書房からの本が出版された年であった)。わたくしは、この2013年には既に体調を壊していたが、これから先生方皆さんの努力により、この法律を柱として「いじめ問題」は解決に向け大きく進んで行くと期待しました。それに伴い「いじめ学」も大きく進化し深化て行くものという希望を抱きました。

しかし最近の「いじめの問題発生状況」と「いじめ学の現実的様相」をネットを通し眺めると、その期待と希望が達成されるには「かなりの時間」を要するのではないかと思われてならなりません。以下の理由によります。

➀令和3(2021)年中に学校で認知された「いじめ件数」は615,351件(特別支援学校を含む小~高等学校)となりました。児童生徒1,000人当たりでは47.7件の認知(発生)件数と計算されています。つまり簡単に言えば100人の児童生徒がいれば、その内のおよそ5人、さらに簡短にいえば小から高等学校まで40人で構成される(小学校はもっと少なく30人ほどか)としてクラスの中でⅠ年間に最低2~3人の子どもが「いじめ被害者になっている」と認知(発生)されていることになります。この子どもたちの中から自殺者や登校拒否児童生徒も出てきます。子どもたちの間だけでなく保護者やクラスを受け持っている先生には「いじめ」を巡って大変な責任とストレスが絶え間なく身近な問題として振りかかっているのではないでしょうか。それでなくとも、今教室は様々な問題で揺れ動いています。

②たとえば今の状況だけでなく、先に掲げた文科省の問題行動調査それによると、平成6年(1994)度及び平成18(2006)年度にかけ調査方法等が改められた結果、平成18(2006)年以降の数値は前年に比べ指数関数的に大幅に増加するという結果になり、その増加傾向が、コロナ禍の下で多少の揺れ動きを見せながら現在まで続いているということになっています。

例えば驚くことに平成18(2006)年に比べ最も新しい数値である令和3(2021)年のいじめ認知件数は、その15年間の間に、学校全体で4.9倍、小学校では実に8.2倍にも膨れ上がっています。

③以上の傾向を大筋まとめると、わたくしが2013年に期待した「いじめの減少」は大きく期待が外れ、増加に次ぐ増加を重ねている状況にあると言えます。その切っ掛けは文科省が云うように「いじめ対策法」が出来てからとのことです。問題を収束・沈静化させるはずの法が、それが作られることにより、かえって問題を増やすという皮肉な結果を導き出してしまった、と思われてもしようがないということになります。

④さらに問題は、この増加する「いじめ」の中から、かってはさほど見受けられなかった裁判あるいは第三者や専門家による調停・指導に至るような、それでも解決にはなかなか至らない「いじめ事件」が絶えることなく数多く出現して来ています。表現すると「いじめ事案」の「悪質化」と云えましょう。「いじめ」の手口も「ネットいじめ」と表現されるような悪質巧妙化の度合いを強めています。

⑤こうした「いじめ」の量的質的悪化は、教室で児童生徒と向き合っている先生方に聞くと、今後も続くのではないかといわれています。

子どもの世界が歪みつつある現状をそのままにして良いのか。子どもの世界の歪みは、わたくしたちの未来社会の歪みでもあります。わたくしなりに1つの提案をしたいと思います。

<今後の「いじめ増減」に関する予見>

子どもたちの間における「いじめ問題」の現状は分かりました。それでは、今後「いじめ」はどういった傾向を辿ると予見できるでしょうか。

 

(文責 清永賢二    2022/11/21)